終わりに
ブリーフケースには、第三ヴァチカン公会議に関する文書は含まれていなかった。だが、そのような文書が存在し、比較研究され、いっそう改悪されている可能性は十分ある。
小さな手帳には、ロシア語のメモが幾つかあった。それを注意深く翻訳してみて、この怪我人の今後の計画が少しだけ明るみにでた。
ミシェルのような人にとっては、第二ヴァチカン公会議は、歴史がほとんど気にも留めない試験的打ち上げに過ぎなかったのである。しかし、第三ヴァチカン公会議は、キリスト教とマルクス主義の結合を確定する。教理の多様性と、妥協を許さぬ社会主義的ドグマという性格が、もっとも注目すべき変化になる。キリスト教であれどの宗教であれ、一つの巨大組織を形成する宗教はみな、共通の指標、つまり「魔術」に低められ、彼らのいう「純粋なるもの」、つまりマルクス主義のコントロールする現実的力がその潜在力になるという。
ミシェルの文書の返還を誰も求めなかったのには驚かされた。しかし、彼は偽名で車を買い、この旅を誰にも言わずにいたのかもしれない。
どこに「黒髪」がいるのかは、私にも分からない。多分、彼女は今も、由緒ある信仰を大切にするカルメル修道会にいるのだろう。
この本も、いつかカルメル会にも広く浸透するようになり、黒髪は私がミシェルのために祈っていることを知ると思う。
(終)
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