2014.05.02

「3のルール」とフリーメイソン

Rule of Three

グリム神父が「3のルール(Rule of Three)」という言い方をしているのを見て前回参照、私は奇妙に思った。何故なら、第一に、そんなものは日本の文化の中にも慣習の中にも無かったから。そして第二に、それは殆ど固有名詞的な、あたかも "定型的なタイトル" ででもあるかのように私の耳に響いたから。
私は思った。「これは何なのだろう? 彼の中に、どこからこんなものがやって来たのだろう?」
で、少し調べてみた。

 「Rule of Three」は幾つかの分野で言われているようである。
Wikipedia の「Rule of Three」の項を参照されたい。
また、Wikipedia が挙げる他にもあるかも知れない。

しかし、それでも、グリム神父はどこからその言い方を思いついたのだろうか。英語圏に於いて「Rule of Three」という言い方は有り触れていて、「ちょっと思いついた」だけだろうか。まあ、そうなのかも知れないが。

しかし、私は「Rule of Three」のもう一つの用例を挙げておきたい。
一言で云えば、これである。

フリーメイソンの用語の中で、この概念は「3のルール」と呼ばれている。

by W・カーク・マクナルティ(スコティッシュ・ライト第32階級)

(1)

私は、危ないことに、本物のフリーメイソンが書いた本を一冊だけ持っている。スコティッシュ・ライト第32階級の W・カーク・マクナルティ(W. Kirk MacNulty)という人が書いた「フリーメイソン - 儀礼と象徴の旅」である。で、その中に次のように書かれている。

(私達にとって彼らの哲学は関心の外だが、しかし物事を確認するために少し長く引用する)

古いフリーメイソン文献において「3の原理」として言及されるものは、第1位階のトレーシング・ボードにおいて、その最も顕著な特徴となっている3本の柱によって明確に表わされる。その異なる建築様式は、 ロッジ/魂のすべての段階において機能する三つの「力」があるという(ウィトルウィウスに基づく)考え方を伝えている。その力とは、まず能動的、拡張的、創造的、膨脹的な力(コリントス式)、次に受動的、反省的、伝統的、抑制的は力(ドリス式)、そして、前の二つの力を調整する意識的・協調的で均衡のとれた力(イオニア式)である。この発想は、フリーメイソンの作業に関する検討において重要な意味をもつ。

フリーメイソン - 儀礼と象徴の旅 p.18
(原題: Freemasonry: A Journey Through Ritual and Symbol)

Tracing Board of the First Degree

ちなみに、彼が言及している「第1位階のトレーシング・ボード」とは右の絵のことである。中に「3本の柱」が見える。(トレーシング・ボードについては次を参照されたい。参照

さて、英語の世界をよく知らない私は、上の「3の原理」の「原理」という訳語を前にして元の英語を類推する時、どうもそのまま「principle」という単語を思い浮かべてしまう。しかし、おそらくそれは「principle」ではなく、また「theory」でもなく、「rule」である筈である。
と云うのは、アメリカのスコティッシュ・ライトから「Heredom」という叢書が出版されており、その第七巻にマクナルティ氏の「Kabbalah and Freemasonry」と題された文章が載っているらしいのだが、その中で彼は、上の引用と同じく「3本の柱」と結び付けながら、「Principle of Three」でも「Theory of Three」でもなく「Rule of Three」と書いているからである。
その文章はWeb上にアップされているから、少しだけ引用する。

Kabbalah and Freemasonry

W. Kirk MacNulty, 32°

THE FIRST DEGREE

COLUMNS OR PILLARS

(…)これらの柱について顕著な事は、柱のそれぞれが異なった建築様式を持つということである。フリーメイソンのシンボリズムに於いて、それらには名が割り当てられている。中央のイオニア式の柱には「智恵」、左のドリス式の柱には「力」、右のコリント式の柱には「美」というふうに。この3本の柱は、生命の樹のように、膨脹的な力と抑制的な力が調整的な介入力によってバランスを保たれているところの宇宙を表わしている。フリーメイソンの用語の中で、この概念は「3のルール」と呼ばれている。

(…)The striking thing about these columns is that each is of a different Order of Architecture. In Masonic symbolism they are assigned names: Wisdom to the Ionic Column in the middle, Strength to the Doric Column on the left, and Beauty to the Corinthian Column on the right. The Three Pillars, like the Tree of Life, speak of a universe in which expansive and constraining forces are held in balance by a coordinating agency. In Masonic terms this idea is called the "Rule of Three."

参照 PDF  /  Adobe Flash Player

この文書の中、他の二箇所でも、彼は "Rule of Three" という形で書いている。形というのはつまり、ダブルクォーテーション・マークで囲み、且つ「rule」と「three」の頭文字を大文字にした形である。だから、これはまさしく「フリーメイソン用語」の一つなのである。

(2)

もう一つの例を紹介する。
それは、アメリカの Southern California Lodge #529 というメイソン・ロッジのウェブサイトの中に見ることができる。
もしあなたがメイソンのウェブサイトを開くことに左程抵抗がなければ、次をクリックしてみて欲しい。Masonic Education Series

それは一つの目次ページである。「Education Series」であるから、メイソンに関する最も基礎的な事柄へ導く案内と云ったところだろう。
さて、その中に、あなたは次の文字列があるのを見るだろう。

The Rule of Three in the Craft
( "Craft" とは石工の組合「ギルド」のことらしい)

その文字列をクリックすると、しかしそれとは少し違った表題のページが開く。しかし、そこにも「Rule of Three」の文字はある。
Our Ancient Grand Master's Staffs, The "Rule of Three", and the Lost Word
(我々の古代のグランド・マスターの笏杖、「3のルール」、そして失われた言葉)

その文章の中には「数字3は象徴主義フリーメイソンに浸透している」とか「三つのグランド・マスター、三つの笏杖、三つの色」などと云った小題が並ぶ。
フリーメイソンにとって「3」という数字が特別なものであることは一般にもかなり知られている。例えば、彼らの重要なシンボルであるピラミッドはトライアングルであるし、彼らの位階は下位が3階級、上位を含めた全体としては33階級(スコティッシュ・ライトの場合)である。彼らは〈直角定規〉と〈コンパス〉と〈聖なる法典〉を合わせて「3つの大いなる光」と呼ぶ。下位の3階級にはそれぞれ違った "3つ一組" の象徴的な〈作業道具〉が与えられる。また、そもそも「自由・平等・博愛」も「3」ということらしい。
事程左様に彼らにとって「3」という数字は大事である。

さて、その南カリフォルニアのロッジの文章だが、中にこんな一節がある。

1723年のメイソンの試験は「3のルール」に触れている。「汝、もしマスターメイソンになる者ならば、"3のルール" をよく遵守せよ」

The Mason's Examination of 1723 alludes to the "Rule of Three." "If a Master Mason you would be, Observe you well the Rule of Three."

(3)

同じ言葉を次のように紹介しているメイソン文書もある。

 「マスターメイソンになる者は、3のルールを常に遵守しなければならない」

"Who would a Master Mason be, Must always observe the Rule of Three."

(4)

また、或る筆者(メイソンとは限らないと思うが)はモーツァルトの「魔笛」の分析に於いてその言葉を出している。

(…)The evocation of the four elements (earth, air, water and fire), the injunction of silence in the Masonic ritual, the figures of the bird, the serpent and the padlock as well as the ‘rule of three’ all play important roles in the plot or in the musical fabric of the opera (three ‘Ladies’, three ‘Boys’, three loud chords at the beginning of the overture signifying the three ‘knocks’ of the initiates at the temple, three temples, the three flats of E-flat Major which is the primary tonality of the work, etc.)

参照 PDF  /  HTML

結 論

私達は彼らの哲学に関して詳しくなる必要は少しもない。
しかし、ともかく、以上により、「3のルール(Rule of Three)」という言い方がフリーメイソンのものでもあることが確認できたと思う。
他のケースを無視するつもりはないが。

そして、グリム神父についても、私は彼が何であるかについて少しも断定しない。
ただ、次の正当な問答をここに置くのみである。

グリム神父は「3のルール」という言い方によって何をしていましたか。

グリム神父は「3のルール」という言い方によってカトリックの伝統的な典礼を斥けようとしていました。

日本に存在しもしないそれによって。

ウイリアム・グリム神父
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