太田竜氏の文章

『歴史読本』臨時増刊「特集 ユダヤ=フリーメーソン 謎の国際機関」
(平成三年九月六日発行 第三十六巻第十八号)p.64〜 からの抜粋

 ケストラー著『ユダヤ人とは誰か——第十三支族、カザール王国の謎』(邦訳、三支社刊)は、現在、ユダヤ人口の九〇パーセントを占めるといわれるアシュケナージ・ユダヤ人は、実は八世紀にユダヤ教に改宗したトルコ系のカザール族の子孫であったという衝撃の書であるが、同書百二十五頁に、十二世紀末のクリミヤ・カザール・ユダヤ人が信仰した「カライ派」なる宗派が登場する。
 その叙述によると、カライ派(カライム=律法を守る人々の意)とは、八世紀のペルシャで生まれた、タルムードを否定し排除する、原理主義的ユダヤ教であるという。
 ところで、デ・グラッペ著『世界攪乱の律法 ユダヤの「タルムード」』(久保田栄吉訳、一九四一年刊)によると、この「カライ派」の成り立ちは、少し違っている。
 それによると「カライ派」とは、パリサイ派の秘密結社がユダヤ人社会の中で勢力を伸長していったのに対して、もともとのモーゼの律法を遵守しようとするユダヤ人たちがつくった一派であり、その勢力は六〇〇年ころには、強大な一分派とまでなった。そして七七五年、バビロンにおける「ユダヤ地下政府の首長」の兄弟、アナヌスがこのカライ派に加担して、著しく勢力を増した。しかし十三世紀以降は次第に衰退した(同上書、九四〜九五頁)とされている。
 カザール王国がユダヤ教に改宗したのは、七四〇年、と推定されているから、ちょうと、ユダヤ教徒のなかで、カライ派の勢力がピークに達しようとしていた時期と符合する。
 ところで、話はカライ派のことではない。パリサイ派である。
 新約聖書では、イエスが痛烈に弾劾した宗派としておなじみだ。パリサイ派はサンヘドリン(ユダヤの最高評議会)を握っており、ユダヤ社会における権力は大きかった。
 そもそも、このパリサイ派とは何者であろうか?
 彼らの起源は、紀元前六世紀のバビロン虜囚時代にさかのぼる。
 バビロンで、ユダヤの学者、宗教指導者(ラビ)たちは、この国(カルデア人)の神官、学者、占星術者、預言者たちと交わるようになった。そしてその結果、ユダヤのラビたちは、カルデアの学問と宗教を取り入れ、それをユダヤ風につくり変えて、モーゼの律法とはまったく異質な、一つの新興宗教を作り上げた。
 これがパリサイ派の起源である。
 彼らの新宗教の内容は、
 (1)神は存在しない。人間こそ万物の上に君臨する神である。
 (2)人間は、ユダヤ民族のみである。ユダヤ以外の人間は動物であり、ユダヤの奴隷たるべきものである。
 という二項目に要約できる。
 彼らは、秘密結社をつくり、ユダヤ人社会における独占的支配権を確立する陰謀を始める。これが、パリサイ派の実体である。ちなみにパリサイとはヘブライ語で「特別なもの」という意味だ。

(…)

イエスはユダヤの民衆の前に立って、パリサイ派の偽善を暴いた。曰く、モーゼの律法を守るといいながら実はそれを裏切っている。許しがたい偽善者どもである、と。
 「ああ、禍なるかな、偽善なる学者とパリサイの人よ、そは、なんじらあまねく水陸を経めぐり、一人をも己が宗旨に引入れんとし、既に引入るれば、之を汝らよりも倍したる地獄の子となせる故なり」(マタイ、二三五)
 「イエス云いけるは、汝等(パリサイ派)己が父なる悪魔より出づ。またその父の欲を行うことを好む」(ヨハネ、八四四)
 外面的敬神を過大に遵守することを装って、心中ひそかに律法の破壊をたくらんでいたパリサイ派は、イエスの弾劾に震撼した。彼らは、多くの預言者を殺したように、イエスを殺すほかはなかった。群衆を煽動し、イエスを十字架につけることに成功する。
 しかし、イエスが昇天したあと、弟子たちは布教につとめ、その勢いを止めることができなかった。
 そこでパリサイ派は、全力をふるってキリスト教徒に対する迫害を組織し、なんとしてもイエスの教えを根絶することに決した。ステパーノは石で撃ち殺された。ペテロも、パウロも殉教した。
 サンへドリンを握るパリサイ派は、全世界に広がるユダヤ人居留民団を動員して、キリスト教排斥運動に立たしめた。ローマ帝国によるキリスト教迫害のほとんどすべては、あの有名な皇帝ネロによるものも含めて、パリサイ派ユダヤ教指導部による煽動の結果である。
 したがって、初期キリスト教会は、「ユダヤ人(ここではパリサイ派を指す)は神の民なることを止めて、悪魔の民となった」ことを公式に弾劾した。
 パリサイ派が占拠するユダヤ指導部、ユダヤ政府は、ローマ帝国軍によるエルサレム破壊のあとも、ヤッファ(地中海沿岸)→ テペリア → バビロン → コンスタンチノープル → サロニカ(トルコ)という順序で維持されたものと推定されている。
 そして、このユダヤ地底政府が、ユダヤ教徒のための新たな教義として編纂したものがタルムードである。
 パリサイ派は、タルムードが非ユダヤ人の目に触れることを非常に恐れ、それを秘匿してきた。
 ヨーロッパのキリスト教徒がそれを詳しく知るようになったのは、印刷機の発明により、タルムードが印刷されて、ある程度大量に普及するようになった、十六世紀以降のことだ。そして、それを読んだキリスト教会の神学者や僧は、心の底から驚愕した。
 「神より生まれたるは唯だユダヤ人のみ、その他の人類は悪魔の子なり。
 人間は動物より高等な如く、ユダヤ人は人間より高等なり。
 ユダヤ人は人類と名づくる権利あるも、非ユダヤ人は豚と命名せんのみ。
 動物を放逐し或いは殺戮し得る如く、我らは非ユダヤ人を逐い之を殺し、又彼らの財物を利用し得るものなり。
 非ユダヤの血を流す者はエホバの神に生けにえをささぐるものなり」
 このような言葉が、タルムードに充満しているのだ。

(…)

彼ら〔パリサイ派〕は、秘密工作員をキリスト教会の中にもぐりこませた。
 事実、一四八九年一月十三日付の、フランス、アルルのユダヤ教ラビ、ハモラの手紙に答えて、コンスタンチノープルのユダヤ王ウススは、同年十一月二十一日付の書簡の中で、キリスト教への偽装帰依を通じてのキリスト教会破壊と、ユダヤの世界支配のために努むべきことを伝えている。

(…)

キリスト教二千年の歴史全体が、ユダヤとの戦いであるともいえる。とりわけ、「聖母マリア信仰」こそ、ユダヤ化に抗して、イエスの教えの純粋性を守り抜くキリスト教信徒の人々の心の表れに違いない。

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