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4.霊魂の橋

第30章

この霊魂が、神のあわれみを嘆美し、人類に与えられた恩恵と恩寵とについて語ることについて。

 すると、この霊魂は、酔いしれたようになり、自分をおさえることができず、神のみまえに立って、つぎのように申し上げた。
 ──ああ、あなたの被造物の過失をおおいかくして下さる永遠のあわれみよ、あなたが、大罪を去ってあなたのもとに帰る人々について、「わたしは、あなたがたがわたしを侮辱したことを、もう覚えていない」(22) と言われたのを、驚きません。ああ、名状しがたいあわれみよ、あなたが、あなたを迫害する人々について、「わたしは、かれらにわれみを注ぐことができるように、かれらのために、わたしに祈ることを望む」と言われたのを聞いてからは、あなたが罪を去る人々について言われたことを、驚かなくなりました。
 ああ、永遠の「父」であるあなたの「神性」から発し、全世界をあなたの権力によって治めるあわれみよ、あなたは、あなたのあわれみによってわたしたちを創造されました。あなたのあわれみによってわたしたちを、あなたの「おん子」の血のなかで、再創造されました。わたしたちを保存してくださるのは、あなたのあわれみです。あなたの「おん子」を苦闘させ、生命に対する死の戦いと死に対する生命の戦いとのなかで、十字架の木の上に遺棄されたのは、あなたのあわれみです。そのとき、「生命」は罪の死に勝ち、罪の死は、けがれなき「子羊」の肉体の生命を奪ったのでした。だれが負けたのでしょうか。死です。その原因はなにだったのでしょうか。あなたのあわれみです。
 あなたのあわれみは生命を与えます。そして、義人と罪人とを問わず、すべての被造物に対するあなたの寛仁を、わたしたちに認識させる光明を与えます。
 天のいと高きところにおいて、あなたのあわれみは、あなたの聖人たちのなかにかがやいています。地を眺めますと、あなたのあわれみはそこにあふれています。地獄の暗黒のなかでも、あなたのあわれみは光っています。亡びた人たちは、その過失ほど重い苦罰を受けていないからです。
 あなたは、あわれみによって、あなたの正義をもっとやさしくしてくださいます。あわれみによって、わたしたちを血のなかで洗ってくださいます。あわれみによって、わたしたちをあなたの被造物といっしょに保存してくださいます。
 ああ、愛に狂えるかたよ、受肉されるだけでは足りなかったのでしょうか。その上、死ぬことを望まれたではありませんか。死ぬだけでは足りなかったのでしょうか。その上、冥府にくだって聖なる太祖たちを解放され、あなたの真理とあわれみとを、かれらにおいて成就されたではありませんか。実際、あなたの「いつくしみ」は、真理においてあなたに仕える人々に幸福を約束されました。そして、冥府にくだって、あなたに仕えた人々を苦しみから救い出し、かれらにその所業の実を返されました。
 あなたのあわれみは、あなたを駆って、人間のためにもっと多くのことを実行させました。あなたは、わたしたちの弱さを強め、わたしたちの無知が、健忘症におちいって、あなたの恩恵の記憶を失うことがないように、ご自分を食物として残されました。そのため、あなたは、聖なる教会の神秘的体のなかで、祭壇の秘跡において、ご自分を人間に与え、これにご自分を示されるのです。だれがこれをなされたのでしょうか。あなたのあわれみです。
 ああ、あわれみよ。わたしの心は、あなたを思うと、燃えさかります。わたしの精神は、どちらを向いても、振り向いても、あわれみしか見出しません。ああ、永遠の「父」よ、あなたのみまえで口をきくほど思いあがっているわたしの無知をお許しください。せめて、あなたのあわれみに対する愛が、あなたの「いつくしみ」のみまえに、お詫びになりますように。

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