第9

意志に得さすべき第二の助力

 意志に得さすべき第二の助力とも云うべきものは、悪魔を情慾から起る凡ての邪なる感動の原動者なりと認めて、これを遠くへ退ける事である。

 凡そ己が心の中に、情慾の発動、及び猥りなる望みに勝ちて、これを押える度ごとに、悪魔を退けてこれに勝つのである。故に、悪魔を逃がさんと欲するならば、情慾に逆らえ。これは使徒聖ヤコボの与えられた訓戒である。しかしここに云うて置きたい事は、時によって悪魔の攻撃が甚だ激しくして、情慾の感動を起さす時には、これに抵抗する事が出来ぬと思う程になることがある。それでも決して驚くには及ばぬ。何時も勇ましくこれに向い、また我等と共にまします神は決して無理に強いられる事を許し給う事なしと、確信せねばならぬ。幾度も云うが、必ず抵抗せよ。然らば辛抱を以て、勝利を得べしと断言す。

 辛抱を以てと云うたが、即ち二三抵抗したばかりでは足らず、誘惑の起る度に抵抗せねばならぬ。一体悪魔の固有の策略は、人に勝つ事が今日出来なんだならば、再びこれを明日誘惑せんとす。今現に抵抗したものをば、次の週間にまた遣りかかって誘惑せんとす。斯く大いなる忍耐を以て、賢く時を延ばし、ある時は激しく、ある時は巧妙にして、目的を達するまで遣りかかるのである。

 結局我等は決心に於て辛抱せねばならぬ。何時も武器を握って、前に勝利を得たとても、これに安んじてはならぬ。

 人の生涯は止み無き戦いであって、その局を結ぶべき勝利は、今日や明日に得ようとする勝利でなく、生命の終局、即ち生涯の末の勝利である。

 こう云わるれば辛そうに思われるが、悪魔の方でも、こちらからしきりに抵抗すればするほど、彼等もたまらぬように辛く思うのである。然れば我等は我が心の慰めに、斯く云うてもよい、「地獄のサタンよ、退け、その苦しみに帰れ、汝の苦しむのは、その罪悪によって招いたのであるが、我れは我が主に背かざる為に苦しむのである。汝の苦しみは終りなけれど、我が苦しみは神の聖寵によって、終りなき平和に交換[なりかわる]べきものである」。

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